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ちゅん、ちゅん――雀が鳴いている。開け放した格子窓から見える青い空。雲が流れている。雪が積もり、一面を銀色に染め上げていた。嗚呼。今日も平和だ。僕は微睡みの底から、其の様を見上げていた。
藍色の羽織から覗く日に焼け無い腕は白く、異人の如くな灰色の髪は緩くうねッている。傍の小机の上から、銀縁の眼鏡を取ッて其れを掛けようと、引出しに手を伸ばした。
ぱた、ぱた――足音がする。引き戸がゆッくりと開かれ、部屋に入ッて来たのは背が高く可憐な少女。漆黒の着物に散る長い黒髪は右上で結わえられ、桜を模した簪が煌めく。大きな瞳は闇の色。
「御主人様、開店の時間で御座います」
「ああ」
其の、可憐で赤く艶めく唇から漏れる洗練された言葉。僕は満足して微笑み、ひんやりと冷たい彼女の頬に触れた。
「花夜(はなよる)。お早う」
「お早う御座います、御主人様。花夜は嬉しゅう御座います」
花夜は、其の侭一礼すると部屋を出て行ッた。寸分乱れる事の無い歩幅。僕は一つ溜息を落とし、布団を払い除け、漸くという形、畳の上に胡坐を掻いた。乱れた髪を撫で、体裁を整えながら僕は花夜を見遣ッた。
今日は晴天。外に出るには、良い天気だ。
僕は花夜の出て行ッた扉を閉めず、流れる空気に笑みを浮かべて、仕事の待つ部屋に行くべく準備を始めた。
僕、東雲篠(しののめ しの)はこの家に花夜と二人で住んでいる。広くも無いが、狭くも無い木造の家。この町では中の下といッた佇まい。僕はこの家を気に入ッていた。
僕の仕事は、人形技師。注文を受けて作る事もあれば、僕の気の向くままに制作する事もある。大きな人形から、小さな人形まで。絡繰人形や、非可動式人形まで。何でも請け負う。其の代り、其の人形に見合ッた報酬は貰ッている。人形作りには、金と手間が掛るのだ。しかし、おかげで、僕はこの業界では随分と名を上げる事が出来ている。其れも、助手である花夜の力が大きい。
花夜は、僕の作ッた最高傑作だ。音声を認識する装置、全可動式の手足、絡繰起動式で、内部の部品が壊れるまで、半永久的に動く事が出来る体。内部の装置の熱で、僅かながら温度を感じる事も出来る。花夜以上の人形は、此の世に一つと無いだろう。
2013/10/12(土) 10:29 UNARRANGEMENT PERMALINK COM(0)
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