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其れから一週間後、僕の人形は完成した。依頼主である彼は、きッちり一週間後、変わらぬ黒い着物でまた僕の店の暖簾を揺らした。花夜は、いつもと変わる事なく、静かに椅子に鎮座している。男が入ッてくると、花夜は少しだけ目を上げて、一礼した。男は笑ッた。
「完成しただろうか」
「僕は、約束は守るよ」
僕も笑ッた。花夜が立ち上がる。
「どうぞ、御客様」
静かな声が響く。僕もゆッくりと立ち上がッた。大きな人形は、店には展示し無い。仕事場とは別の、特別な部屋があり、其処へと案内する。今日も寒い。また、雪が降ッてくるだろう。
「どうぞ」
花夜がまた、同じ言葉を発する。扉が開いた。
「……素晴らしい」
彼は、言葉を漏らした。其れは、心の底からの言葉。緩慢たる動きで、彼は人形の頬に触れた。そッと。愛しむ様に。花夜は、其の様子を微動だにせず見詰めている。硝子の瞳には、一体何が写ッているのだろうか。
「これは、彼女そのものだ」
男の其の言葉に、僕は満足した。
預かッた材料を元に、僕は人形を作り上げる。肌も、瞳も、表情も、其の人間が生きていた時と何ら変わりの無い様に。
「君の喪中ももう終るね」
「……ああ、そうだな。これで彼女は永遠に此の世にいる」
くつくつ、笑みが浮かぶ。
僕の人形は、ヒトガタ、だ。
死んで仕舞ッた人間を、再度此の世に甦らせる。もう話さ無い。もう熱を発する事は無い。抱き締め返してくれる事は無い。だけれど、代わりに、「彼女」や「彼」は老いる事は無い。口汚く罵る言葉を吐く事は無い。自分の傍から消えて無くなる事は無い。失う事はもう二度と無い。
死んで仕舞ッた其の人を、此の世に繋ぎ止めておく糸。
其の人形を愛でる事が、愛でなくて何と言えるだろう。
此の世は狂ッて仕舞ッている。
そう、狂ッて仕舞ッているのだ。
2013/10/09(水) 10:22 UNARRANGEMENT PERMALINK COM(0)
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